AIに読んでもらう時代に、自分で読む意味とは——読解力と学び
2026年9月8日、国際的な学習到達度調査「PISA 2025」の結果が公表されました。報告書は、学力の変化に加え、生徒によるAIの利用にも目を向けています。(OECD公式報告書)
長い文章を前にして、ChatGPTなどに「要約して」と頼む。読む前に見通しがつくのは、ありがたいことです。それでも、自分で読む意味はどこにあるのでしょうか。
今回の調査だけで、AIが読解力低下の原因だと決まったわけではありません。結果を確かめながら、AIの助けと、自分の理解との関係を考えてみます。
PISAの結果から何が言えるか
日本の読解力の平均得点は503点で、前回の2022年から13点下がりました。ただし、長い期間で見ると上下があり、今回は2018年に近い水準です。「子どもたちは一貫して読めなくなっている」とまとめるのも、慎重でありたいところです。(OECD・日本の結果)(日本Country Note)
OECD平均で見ると、AIを要約や文章の下書きに使う生徒の得点が、ほとんど使わない生徒より低い傾向があります。一方、学習の助けとして週1~2回使う生徒の得点は、家庭の社会経済的背景を考慮すると、ほとんど使わない生徒と同程度でした。
目的や頻度によって関連が異なるのです。ただし、ここで比べているのは科学的リテラシーの得点であり、読解力への影響を直接示す結果ではありません。(報告書・図I.4.13)
また、関連があることと、原因であることは異なります。もともと学習に難しさを感じているためにAIを頼る場合もあるでしょう。家庭や学校の環境、学習習慣なども関わり得ます。これらは考慮すべき可能性であって、今回の結果の原因と確定したものではありません。
SNSやデジタル機器についても、利用時間だけでなく、調べ物に使ったのか、読書中に通知へ何度も目を移していたのか、といった違いを考えたいところです。
AIの助けが自分の学びになるとき
同じ文章の要約を頼んでも、その後のふるまいはいろいろあります。
要約を読んで、おおよその内容が分かり、そこで終える。あるいは、気になった箇所を本文で探し、「この説明は、どの言葉から言えるのだろう」と照らし合わせる。さらに、説明を閉じて、自分の言葉で内容を話してみる。
読む文章を選ぶためなら、要約だけで目的を果たせることもあります。一方、内容を理解して身につけたいときには、要約を受け取った後の活動にも目を向ける必要があります。
この違いを考える手がかりになる研究があります。
イングランドの14~15歳を対象にした実験では、文章の学習にAIのみ、ノートのみ、または両方を使うという三つの条件を設けました。一人ひとりが、そのうち二つを経験しています。いずれも元の文章を画面で参照でき、ノートも画面上で取りました。
3日後のテストでは、理解を問う問題と、文章中の情報を覚えているか尋ねる問題で、ノートのみとAI・ノート併用のどちらの場合も、AIのみで学んだときより高い成績でした。ただし、内容を自由に思い出して書く課題では、併用とAIのみの間に統計的に明確な差は確認されませんでした。(Kreijkesほか、2026)
これは特定の文章とAIを用いた短期間の実験で、長期の読解力の変化を示したものではありません。それでも、説明を受け取ることに加えて、自分で整理する活動を残す意味を考えさせてくれます。
トルコの高校数学の実験でも、AIの設計による違いが見られました。通常のチャットに近いAIを使った生徒は、AIを使わず練習した生徒に比べ、練習問題の成績は高かった一方、その後にAIなしで受けた試験の成績は低くなりました。教師の知見をもとにヒントを出すよう設計したAIでは、その傾向がほぼ解消されました。ただし、試験でAIなしの群を上回る効果は確認されていません。(Bastaniほか、2025)
数学の結果をそのまま国語へ移すことはできませんが、課題をうまく仕上げることと、自分でできるようになることを分けて考える材料になります。「使い方」は本人の心がけだけで決まるものでもなく、道具の設計や教師の支えも関わります。
初めから一人で全文を読み切る必要はありません。難しい語や背景の説明を先に受けて、本文へ入る方法もあります。助けを借りながら、どこで自分が読み、考え、言葉にするのか。その機会を学習の中に用意したいと思います。
その要約を、本文と比べてみると
短い本文と要約を読み比べてみましょう。
本文
図書館では、この春、入口脇にベンチを置いた。晴れた日の昼休みには、借りた本をそこで開く人の姿が見られる。先週も、ページをめくりながらしばらく過ごす人がいた。返却を終えて一息つく人や、待ち合わせに使う人もいる。担当者は、こうした利用の様子を日誌につけている。今後は、日差しが強くなる季節や雨の日の様子も見ながら、ベンチの置き場所を考えていくという。
要約
図書館の入口脇に、この春ベンチが設置された。晴れた日の昼休みには本を開く人が見られ、休憩や待ち合わせにも使われ、読書の場所として定着した。
本文と比べて、この要約はどこまで適切でしょうか。そう考えた根拠も、本文から探してみてください。
読み比べてみると
設置された時期や場所、本を開く人がいることは、本文に沿っています。休憩や待ち合わせへの言及も妥当です。
一方、「定着した」はどうでしょう。本文が伝えるのは、晴れた日の昼休みなどの利用の様子です。今後の様子も見ていくとありますが、読書の場所として利用が根づいた、とまでは示されていません。
「読書に使う人もいる」とすれば、本文が伝える範囲に収まります。もちろん、直し方は一つではありません。また、「定着したとまでは言えない」ことは、「定着していない」と断定することとも違います。
AIの答えを読むのも自分です
先ほどの要約は、話の大筋を捉えていました。それでも、「定着した」という一語で、観察の報告が、一歩先の評価へ変わっています。
この違いを考えるには、本文の言葉を拾うだけでなく、書き手が何を確かめ、どこまで判断しているのかを読む必要があります。もっともらしい説明の中にも、立ち止まって確かめたい箇所はあるのです。
反対に、要約が適切だったときも、「どこが本文に合っているのか」を説明できれば、自分の理解を確かめられます。答えを評価することには、合っている理由を見つけることも含まれます。
ここから、読解力の違いが、AIの説明の受け取り方にも表れるのではないか、という問いが生まれます。ただし、AIによって読解力の格差が広がるのだと、今回の資料から結論づけることはできません。むしろ、本文に戻って確かめる経験を、誰もが積めるようにすることを考えたいのです。
和会塾の国語でも、どの言葉を根拠にしたかを確かめ、自分の読みを言葉にし、他の人の解釈を受けて読み直すことを大切にしています。その営みは、AIの説明と付き合うときにもつながります。
もちろん、外の世界の事実を確かめるには、別の資料や、その分野の知識も必要です。国語で育てる力は、そうした知識とともに、説明の根拠や範囲を問い直すための基礎になると考えています。
問い返しながら自分の理解をつくる
AIから説明を受けた後、こんな問いを一つ加えてみてはどうでしょうか。
- その説明の根拠は、本文のどこにある?
- 本文から考えられる、別の読み方はある?
- 自分はこう読んだけれど、本文と合わないところはある?
返答を手がかりに、もう一度文章を見ます。AIの指摘で、自分の読み落としに気づくこともあるでしょう。一方、同じAIに聞き直して肯定されたことだけでは、確認したことにはなりません。実際の言葉と照合し、その後で、自分ならどう説明するかを考えます。
PISAも、授業でAIが生成した情報の質を評価する経験に注目しています。OECD平均では、学習のためにAIを週1回以上使う生徒のうち、授業でそうした評価を行うことがあると答えた生徒の科学得点が、ほとんどないと答えた生徒よりやや高いという関連が示されました。授業の効果を証明する結果ではありませんが、AIをどう扱う機会があるかにも目を向ける分析です。(報告書・Box I.4.2、図I.4.14)
自分の見方を言葉にし、応答を受けて考え直し、対象へ戻る。これは、和会塾が大切にする対話とも重なります。人との対話には、その人の経験や気持ちを受け取る営みもあり、AIとのやり取りがそのまま代わりになるわけではありません。それでも、応答を通じて自分の理解を練り直すことは、AIとの間でも試せます。
長い文章を前にしたとき、AIの説明が読むきっかけになる。そこから本文の一語が気になり、「もう少し読んでみよう」と思う。
要約だけでは通り過ぎていた言葉に、自分で出会い直せる。読む面白さは、そんな行き来の中にも生まれるのではないでしょうか。
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出典・参照資料
資料確認日:2026年9月8日。
- OECD(2026)PISA 2025 Results (Volume I): Future-Ready Students。AIの利用目的・頻度は図I.4.13、AI生成情報の評価経験はBox I.4.2および図I.4.14を参照。
- OECD(2026)PISA 2025 Results (Volume I): Country Notes — Japan、Education GPS — Japan, Student performance (PISA 2025)。日本の読解力の得点・前回差・経年変化を参照。
- Kreijkes, P., et al.(2026)“Effects of LLM use and note-taking on reading comprehension and memory: A randomised experiment in secondary schools.” Computers & Education, 243, 105514。掲載版全文/DOI。オンライン公開は2025年11月24日。本文では3日後の理解、質問で確かめた情報の保持、自由に思い出して書く課題を区別して紹介。方法は第3.2節、測定は表1、結果は第4.2節・表3を参照。
- Bastani, H., et al.(2025)“Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics.” PNAS, 122, e2422633122。DOI/著者公開全文。本文では、練習中の課題成績と、AIを使わない試験の成績を区別して紹介。
